2日制のタイトル戦の1日目終了時点で行われるのが封じ手です。
この封じ手、1日制の対局では見ることのできないシーンなので、とても興味深いところですよね。
そこで、なぜ封じ手をするのか、封じ手をする棋士はあらかじめ決まっているのか、有利不利はあるのかなど、詳細をまとめてみました。
もくじ
封じ手とは?
将棋の場合、主に2日制のタイトル戦(名人戦、竜王戦、王位戦、王将戦)で採用されています。
1日目終了時、封じ手を行う棋士は盤面が記された用紙に次の手を記し、封筒に入れて封をします。
この時、同じものを2通用意します。
翌日、封を開けて次の手が明らかにされた後、2日目の対局が再開されます。
なお、1日目の終了時刻は、
- 名人戦・・・18時30分
- 竜王戦、王位戦、王将戦・・・18時
となっています。
封じ手をする意味って?
封じ手を行わずに1日目を終了した場合、手番の棋士は翌日までずっと考えることができてしまうため不公平になります。
この不公平さをなくすために、封じ手を行っているんですね。
封筒は厳重に保管されるため、当然書き直すことはできません。
タイトル戦での封じ手のタイミング
封じ手の時刻になったら、その対局の立会人が、
「封じ手の時刻になりました。【棋士名】の手番で封じてください」
といった感じで声をかけます。
1日目の対局終了時刻に、手番を得ている棋士が封じるのがルールです。
この時点で、すぐに封じるのが通例ですが、指し手が決まっていない場合はそのまま考えることもできます。
封じ手をする棋士は、誰にも見られないよう別室に移動します。
赤ペンを使い、動かす駒または持ち駒に○をつけて、矢印で指す位置を示します。
※タイトル、棋士名は架空のものです。
※符号は書かなくても大丈夫です。
同じものを2通書きます。
これは、万が一の事態(紛失など)に備えてのことです。
一通は立会人、もう一通は対局場(旅館やホテル)が保管します。
用紙を封筒に入れてのり付けをしたら対局室に戻ります。
封筒ののり付け部分に両対局者のサインを入れたら、完了です。
立会人に封筒を渡して1日目は終了します。
翌朝、立会人が封を開ける
翌朝、前日までの指し手を再現した後、立会人が2通の封筒を持って対局者の近くに座ります。
2通の封筒にハサミを入れ(全部は切らない)、中の用紙を取り出し、2枚とも同じ内容であることを確認し、
「封じ手は○○です」と宣言します。
そして、相手の棋士にも確認のため、用紙を見てもらいます。
こうして2日目の対局が開始となります。
用紙は誰が用意する?
現局面が書かれた用紙は、記録係が用意します。
将棋盤のマス目自体はあらかじめ印刷されていますが、実際の局面は記録係が手書きで書き記していくことになります。
上記のようなフォーマットがあるので、これに手書きで書いていきます。
記録係は封じ手時刻に間に合うように早めに用意しておく必要があるので、たとえば封じ手5分前に指されて、慌てて書き直す・・・といったケースもまれにあったりします。
棋士側もその辺を考慮して、封じる旨をあらかじめ記録係に伝えることもあります。
ちなみに、5分前に指したからといってルール違反なわけではありません。
封じ手をする棋士は対局ごとに決まっているの?
封じ手は1日目の対局終了時刻に、手番を得ている棋士が行う
どちらの棋士が封じ手をするのか、対局ごとに決まっているのかというと実は決まっていません。
どちらの棋士が封じるかは流動的で、実際にその時間になってみないとわかりません。
ですので、そのタイトル戦で全局同じ棋士が封じ手をする、という可能性もあったりします。
封じ手に有利・不利はある?
封じ手をしたいかしたくないか、有利か不利かどうかは、棋士によって意見が分かれるようです。
特に気にしないという棋士もいれば、封じ手をした方が有利と考える棋士もいたりします。
封じ手をした方が、自分だけ一手先を知っていることになるので得なような気もしますが、相手の次の一手がわかるわけではないので、あまり関係ないのかもしれません。
封じ手をしない方が、アレコレ考えずに翌日を迎えることができるかもしれませんね。
ただ実際問題、どの局面で封じるか、どちらが封じるかは難しいところです。
対局者の心理として、封じ手をする場合は、できれば簡単な局面で封じたいというものがあります。
なぜかというと、簡単な局面であれば悩まずに済むからですね。
あまりに難しい局面で封じ手の時間を迎えてしまうと、どの手を選べば良いか、かなり悩むことになります。
悩みに悩んだ末に選んだ封じ手がもしも悪手だったら・・・
封じ手をした後に、もっと良い手が浮かんでしまったら・・・
「自分が封じるなら簡単な局面で封じたい」
「相手が封じるなら複雑な局面にしておきたい」
・・・といったようなことも、対局者同士で考えている可能性はあります。
昼食休憩に封じ手をしない理由
昼食休憩中、手番の棋士はその間ずっと考えることができるわけですが、もしかすると「不公平だ」と考える人もいるかもしれませんね。
休憩中に封じ手をしないのは、単純に運用が難しいからというのがあると思います。
封じ手を行うには、記録係が用紙を用意し、封じ手をする棋士がそれに記入して、両対局者のサインを入れて・・・という作業が必要になります。
また、封を開ける際にもそれなりの時間がかかります。
また「そこまでやる必要はないだろう」と考える棋士が多いのかなとも思います。
これは、タイトル戦に限らず、順位戦などの一般棋戦でも同様ですね。
休憩で手番がどちらにあるかも作戦のうち
お昼休憩や夕食休憩で、手番が自分にあるのか相手にあるのか、これも作戦の一つと捉えることもできますね。
たとえば、30分くらいの長考をして指し手は決まったものの、昼休憩まであと10分といった場合、今指してしまうと、相手に休憩中考える時間を与えてしまいます。
そこで、指し手は決まっているがあえて指さずに昼食後に指すといったことはよくあります。
ずるいと思われる人もいるかもしれませんが、その分消費時間は多くなるので、ある程度のバランスは取れているのかなと思います。
まとめ
ということで、封じ手に関する内容をまとめた記事をお届けしました。
ネット中継を観戦していると2日制のタイトル戦で必ず登場する封じ手は、将棋文化を感じられるところもあり、とても興味深いですよね。
丁寧さや奥ゆかしさ、厳かな雰囲気も感じ取れて、観る側にとっても楽しいものだと思います。